はじめに
海外出張の際、意外におざなりになりがちなことの一つとして「保険」があります。
一般的に出張というと短期間であることが多いため、出張先で病気になったり事故に遭ったりすることは滅多にないでしょう。
しかし、海外出張の場合、万が一病気や事故にあった時のインパクトは意外と大きいのです。
そこで、本記事ではその万が一が起きた時のための備え「保険」についてまとめてみたいと思います。
海外旅行で保険が必要と思う理由
旅行期間が短ければほぼ病気にはならないと思ってもいい
そもそも論になりますが、例えば数日〜一週間程度の出張の場合、その間に病気にかかる可能性は確率的に低いと言えます。
出張できている場合、予定(旅程)は決まっているでしょう。
基本は取引先や訪問先との商談あるいは工場見学といったスケジュールをこなすことになるため、得体の知れない病気に罹患することはないでしょう。
このような発生確率が低いリスクに対してどのくらいの備えをするかは読者の皆さんそれぞれの価値観によるところが大きいと言えますね。
万が一病気になったらアウト
ただ、一つ言えることは、海外の病院では、高額な医療費を請求されます。
この金額は恐らく想定以上の金額と言って良いでしょう。
その金額に対して、耐えうる家計を築いている人は良いのですが、そうではない人、あるいはそのような出費を好まない人は万全の体制(知識や保険などの対策)を築いておく必要があります。
どんな病気が想定されるか?
以前、出張のためベトナムに来られた取引先の方で病院のお世話になった方がいらっしゃいました。
ひどい下痢で、一晩病院に入院し、点滴を受けるまでの状態になっていました。
この方は私たちの工場を訪れる前に、別の訪問先の接待で海産物を召し上がったそうです。
おそらく状況的にみて「貝」にあたったのだろうという話になっていました。
また以前ハノイ市内のある病院に勤務されていた医師から聞いた話によると、「ベトナムでは一年中インフルエンザがある」そうで、いつでもかかる可能性があるそうです。(私自身がインフルエンザに罹患して検査を受けた時に言われました(^^;)
そうしてみると次のような症状で病院のお世話になる可能性があると言えますね。
- 食あたり
- ウィルス性の風邪など
病院は事前にチェック
日本人向けの病院に行くのがアンパイ
レストラン事情と同じで、ベトナムにも日本人向けの病院があります。
日本人/日系企業が運営している病院(いわゆる「日系の病院」)や、日本以外の外国資本の病院で日本人医師が勤務している病院などもありますね。
その様な病院で、担当医が日本人であれば、日本にいるときと同じように診察をしてもらえます。
しかし、そうではない場合、つまりベトナム人あるいは日本人以外の外国人が勤務する病院の場合は、英語での会話となります。(場合によってはベトナム語の時も…)
もちろん、英語に自信がある方は、どのような病院でも大丈夫かも知れません。
しかし、医療用語まで含めしっかりと英語で会話ができる自信がなければ、やはり日本人医師の勤務する病院へ行くのがアンパイと言えるでしょう。
日系の病院はどこが良いか?
今は日系の病院も多くなりました。
Googleなどで「病院 ハノイ」「病院 ホーチミン」などと検索をしても検索結果として情報が出てくると思います。
その様な情報に基づいて、病院を選択すれば良いと思います。
今出張ベースでベトナムに来ている私は、体調が悪い時には「ロータスクリニック」を利用しています。
受付から、診察まで全て日本語で行えます。
受付の担当者の日本語もかなりレベルが高いと思います。(私は普段、受付や支払い手続きくらいであれば、ベトナム語でやりとりするのですが、この病院の担当者は日本語のレベルが高いので、普通に日本語で会話をしています)
ロータスクリニックはハノイとホーチミンにあり、情報共有もしてもらえるので、ベトナム国内での出張も多い私としては非常に助かっています。
また、後述する保険の利用手続きなどにも対応してもらえるので、安心です。
医療制度や保険が有効か否かをチェックしておこう
日系の病院を選択するメリットとしては、後述するように日本の保険や医療制度に対応してくれたり、柔軟に書類の準備をしてくれたりする点も挙げられます。
今は、ベトナム国内の諸事情をまとめているブログや、駐在員のための情報サイトなどが多く存在します。
そのようなサイトから、どの様な病院があり、それぞれの病院でどの様なサービスを提供してくれるのかを予めチェックしておくのが良いかと思います。
海外での医療費はこうして対応
海外での医療費の支払いパターン
繰り返しになりますが、海外では高額な医療費がかかります。
しかし、大きく次の3つの対策を知っていれば、安価にあるいは無料で医療を受けることができるはずです。
- 国民健康保険
- 民間の海外旅行保険
- クレジットカードなどに付帯の海外旅行保険
(1)は国民健康保険の「海外療養費制度」という制度を利用するものです。
渡航先で支払った医療費を、帰国後に申請します。
すると、日本で同じ医療を受けた時にかかる費用を基準に、還付金が支払われるという制度です。
ただし、現地では一度全額を自分で支払う必要がある点にはご注意ください。
(2)は民間の海外旅行保険を利用する場合です。
民間の海外旅行保険には様々なタイプのものがあると思います。
出張期間や渡航先に応じて選ぶことで、比較的リーズナブルに手厚い保険に入ることができるかも知れません。
ただし、利用条件は保険によって異なると思います。
事前によく調べておきましょう。
(3)は、文字通りクレジットカードに付帯された海外旅行保険のこと。
要するに、クレジットカードを持っていれば、追加料金なしに利用できる保険になります。
日本にいる時は、クレジットカードのパンフレットなど「海外旅行保険付帯」と書かれていても、全く見ていませんでしたが、後述するとおり今では私にとって大変ありがたいサービスといえます。
福利厚生が充実していない状況であれば、クレカの海外旅行者保険をフル活用
例えば、次の様な場合には海外出張のたびに会社が民間の海外旅行保険に加入してくれることはまずないのではないでしょうか?
- 現在市場調査中である場合
- あるいは会社の業務上、海外出張をする人がほとんどいないような会社の場合
定期的な海外出張者がいたとしても、中小企業だと総務担当者にあまり海外出張についての知識がなく、海外旅行保険をかけるという概念自体がない場合もあるかも知れません。
海外旅行保険加入を訴えたとしてもあまり良い反応は返ってこないでしょう。
その様な場合に使えるのが、クレジットカード付帯の海外旅行保険です。
例え海外旅行保険に加入してくれなくても、コーポレートカードを貸与してくれる会社は多いかと思います。(個人のクレジットカードでも付帯されていると思います。一度ご確認ください。)
実のところ、比較的短期の海外出張者にとってクレジットカード付帯の保険が最も利用しやすい保険ではないかと考えています。
クレカ付帯の海外旅行保険が便利である理由
クレジットカード付帯の海外旅行保険が便利である理由は大きく次の3つです。
- 事前に特別な手続きが不要
- 追加コストは不要
- 保険の内容によっては、キャッシュレスで受診できる
海外出張は事前準備が色々とあり、非常に大変だと思います。
そんな中、保険に関わる手続きが一つ減るだけでも助かりますよね。
クレジットカード付帯の保険を利用することの大きなメリットは「事前手続きが不要」である点にあるでしょう。
それでいてかなり手厚い保険をカバーしてくれます。
例えクレジットカード付帯の保険が利用できなかったとしても、最悪は国民健康保険の「海外療養費制度」を使えば良いのです。
国民健康保険を利用する場合、一度は自分が全額負担しないといけないというリスクや、帰国後の手続きの手間などがあります。
それを避けるための前段として、クレジットカード付帯の海外旅行保険があるということを覚えておきましょう。
保険を利用する手順(損保ジャパンの場合)
この項では私が利用している海外旅行保険を例に実際の使用例を紹介したいと思います。
前提
私は、次の様なコーポレートカードを貸与されています。
- JCBエクスプレスコーポレートカード
- 提携している保険会社:損保ジャパン
付帯されている保険は、損保ジャパンの保険です。
そのため、実際に保険利用の手続きは損保ジャパンに連絡をして行うことになります。
損保ジャパンの保険では2つの支払いパターンがある
JCBエクスプレスコーポレートカードに付帯されている保険を利用する場合、大きく次の2つの利用パターンがあります。
- 事前申請(キャッシュレス受診)
- 事後申請(受診後、実費を還付)
事前申請の方法とメリット・デメリット
事前申請は、病院に行く前に損保ジャパンに連絡をするパターンです。
具体的には次のような手順になります。
- 損保ジャパンに連絡
- 症状を伝える(その他諸々の情報を伝える)
- 保険適用条件に合致していると判断されたら、病院を予約
- 損保ジャパンから病院を確認してもらう
- 問題がなければ、病院に行き、受診をする
メリットは、何といってもキャッシュレスで受診ができるということ。
事前に電話にて手続きが全て完了しているため、病院にはパスポートを持って行くのみです。
※病院や状況によっては、渡航時の航空券の半券の提示を求められるかも知れません。
デメリットは、病院に行くまでの手続きに時間がかかるということ。
文字で書くと上記のとおりですが、実際に上記の手続きを行うと、相当長い時間がかかります(^^;
特に高熱が出て体の疲労がピークに達しているような時にはおそらく尋常ではない忍耐力が求められるでしょう。
私の経験では、最初に損保ジャパンの窓口に連絡をしてから、諸々の確認を終えて病院に行ける状況になるまで2〜3時間くらいがかかるイメージです。
事後申請の方法とメリット・デメリット
事後申請は、事前審査などの手続きをすることなく、日本で病院に行くような感覚で病院に予約を入れて診察を受けるやり方。
診察を受けた後で、保険会社に申請をして、保険でカバー可能な金額を振り込んでもらいます。(基本は全額戻ってくると思います)
手順は次の様になっています。
- 病院にて診察を受け、支払いを済ませる
- 保険会社に連絡をして、申請用の用紙を送ってもらう
- 申請用紙に必要事項を書き、返送をする
- 審査が通れば、申請用紙と共に指定した口座に振り込んでもらう
メリットは何といっても、事前に特別な手続きをせずに病院に行けること。
苦しい時には、最も助かる方法だと思います。ただし、事後申請に必要書類は忘れずに受け取っておきましょう。
また、私の経験上事後のやり取りに要する時間は、「事前申請」の場合に比べて短いのではないかと思います。(←本記事執筆時点で事後申請手続きの途中ですので、完了しましたら、適宜更新したいと思います)
デメリットは、本当に還付してもらえるのかどうかわからないので、非常に不安だというところ。
何といっても、高額の医療費を自分で支払った後での申請になりますので、
「戻ってこなかったら、どうしよう」
という不安は付きまといますね。
また、支払ってから、還付されるまでのタイムラグがあるので、毎月のやりくりがギリギリの方には辛いかも知れません。
なお、この方法では、支払いに使えるクレジットカードに制限はありません。
現金でも、使用する保険が付帯されているクレジットカードでも、あるいはご自身のクレジットカードでも良いそうです。
診察後にしかるべき書類を受け取って、申請ができれば良いとのこと。
実は、この記事を執筆する直前で、ちょうどこのタイプで診察を受けました。
手続きが完了できましたら、その時の経験も盛り込んで本記事も更新したいと思います。
カード付帯の保険利用の前提と事前準備(具体例)
以下は、私が利用しているJCBエクスプレスコーポレートカードを例に具体的な使い方などをまとめていきます。
大前提
クレジットカード付帯の海外旅行保険を使うには、次のような大前提があります。
- そのクレジットカードを使って、渡航先へ行くための航空券を購入しておく必要がある
- 日本出国後、3ヶ月以内であること
- 渡航先で発症した症状であること(※これは自己申告ですね)
(3)は常識に考えて理解できると思いますが、(1)と(2)は事前に押さえておきたいポイントです。
もし、3ヶ月を超える渡航期間があるのであれば、別途海外旅行保険に加入しておくべきかと思います。
クレジットカード付帯の旅行保険を利用する準備
クレジットカード付帯の旅行保険を利用する際、保険会社は次のようなことを確認します。
- クレジットカードに関する情報(クレジットカード番号、法人名、カードに登録されている所有者の情報など)
- 渡航先への入国日
- 当該クレジットカードで購入した航空券のEチケットなど
(3)の目的は、航空券の購入金額が正確にわかる情報を伝えることにあります。購入金額を照会することで確かに当該クレジットカードを利用したことを確認する様です。(→これが意外と焦る)
具体的なやりとり
死にそうな状態で事前に上記の情報を用意した上で、専用窓口に連絡をします。
ご想像のとおりなかなか電話が繋がらないです(^^;
流れとしては
(A) 専用窓口に電話
(B) 担当者の指示に従い、各種基本情報(クレジット番号や氏名など)を伝える
→連絡先も伝えておきます(ベトナムで受けることができる電話番号、私は日本の携帯電話で受けて想定以上の料金が発生するのを避けるため、「+84」のから始まる現地の携帯電話を伝えるようにしています)
(C) 一度電話を切って、伝えた情報の確認が終わるのを待つ(先方から連絡が入るのを待つ)
(D) どこの病院で診察を受けるのかを伝える
→保険会社ごとに提携している病院があるようなので、そこで診察を受けるようにすると話がスムーズ
(E) 病院に連絡をして、予約をとる
(F) もう一度専用窓口に連絡をして、予約した内容を伝える
→同じ担当者とは限らないためもう一度クレジットカードの番号などの情報を言わないといけない(忍耐あるのみ)
(G) 病院に行く
この時、(身分証明書として)パスポートが必要
入国日がわかる情報(できれば、渡航時に使用した航空券があると良い)
(A)〜(G)の一連の流れを経てようやく診察をしてもらえることになります。
前項でも述べましたが、熱が出て相当体がだるい状態で、このやりとりをしましたが、正直辛いです。
それでもキャッシュレスで診察と治療を受けることができるので非常に助かります。
以前、駐在していた時は会社が通常の旅行者保険に加入してくれていたので、ほぼ何も考えることなく予約して、病院に行っていました。
もちろん、キャッシュレスです。
病院にはパスポートと保険証書のコピーを持っていくだけでしたので、非常に障壁は低かったです。
あれが当たり前だと思っていましたが…今となっては仕方ないですね。
注意点
クレジットカード付帯の保険を実際に何回か利用していて、気になっている点、注意点をまとめておきます。
- 海外から日本の電話番号に発信できる電話が必要
- フリーダイヤルはIP電話だとかからない。楽天LINKなどを利用する場合は、フリーダイアルではない番号を確認しておく必要がある(東京03から始まる番号など)
- 当該の国の窓口がないことがある(その場合は、どの国からの発信も受け付けてくれる番号にかけること)
- 対象の番号がいつの間にか変わっていて、どこに電話すれば良いかわからなくなることがある
- 5分くらい診察をしてもらい、複数種類の薬をもらうだけでも4万円くらいかかる(←お金がかかるイメージとして捉えてください)
(4)は最近(2024年7月初旬に)あった話です。
昨年までかけていた番号にかけたところ、「新しい番号におかけください」と自動応答が流れ、どこに電話をすれば良いか全く検討がつかず途方に暮れました。
インターネットで調べても、どこにかければ良いのか全然わからなかったです。
やっとの思いで、最新の(クレジットカードの)利用規約(PDF)に辿り着けました。この利用規約の中(利用規約の後半)に保険の問い合わせ窓口が書かれています。
ちなみに2023年に発行してもらったクレジットカードの(冊子の)利用規約にはベトナムの窓口が書かれていませんでしたが、2024年の最新の規約にはベトナムの窓口が追加されていましたよ。
「JCBカード 利用規約」で検索すれば出てきます。同じカードを使っているという方は参考にしていただければと思います。
まとめ
海外出張中に利用する保険についてまとめました。
正直、出張中に病院の世話にならないといけないくらい体調を崩してしまうことは滅多に起こらないでしょう。
しかし、万が一に備えておくことはやはり重要です。
少なくとも、選択肢の一つとして頭の片隅に残しておいていただければと思います。